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民主主義の崩壊と学問の自由 [オピニオン]

 歴史的に見ると、多くの国で市民革命により君主が国を支配する封建制から国民が主権を持つ民主主義国家に変わり、理想的には選挙で選ばれた国会議員が国の方針を決め、それに基づいて行政府が政策を実行することになっている。この民主主義国家は、軍によるクーデターだけでなく、1人の人間が国会の議論を通して権力を自分に集中させる仕組みを作り上げ、皇帝のごとき絶対的支配者になることによって崩壊する。第2次世界大戦前のドイツのヒトラーは民主的手続きによって権力を掌握し、近年のロシアや共産主義国家でも独裁者が台頭している。
 民主主義の根幹は、言論の自由と国民の知る権利である。この10年ほどの間、行政府の長は国会での議論ではなく、自分のお気に入りの専門家を集めた諮問会議で政策を決め、さらに私(個人、知人、党)利のための政策ばかりを行ってきた。また、”議論を避ける”、”嘘の答弁をする”、“予備費を増やす”など国権の中心であるべき国会を無視し、忖度がはびこり、都合の悪いデータの改ざんが行われるような行政組織に変えられてきた。
 教育や研究に対しても、国会での議論ではなく、教育に関しては教育再生会議や教育再生実行会議、研究に関しては総合科学技術イノベーション会議(前総合科学技術会議)で、方針が決められている。行政の長への権力の集中は民主主義の崩壊の始まりであり、学問の自由を脅かすものである。
 民主主義の破壊を先導してきた人物をたたえることは、その破壊をさらに拡大することになろう。

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原発処理水の海洋放出に反対する [オピニオン]

 東京電力は、政府の方針に従って、たまり続ける福島第一原発の処理水の海洋放出のための設備工事を始めた。処理水には、放射性のトリチウムが含まれているが、政府は、「基準以下の濃度に薄めて放出するから影響はない」「イギリスではすでに放出されている」などと正常な科学的判断では受け入れられない理屈で、海洋放出を決めた。低レベル放射能の環境や人類に及ぼす影響は、「科学的な問題だが科学的に判断できない」いわゆる「トランスサイエンスの問題」である。海水中に放出された放射性物質が、減衰するまでの間にどれだけの影響を生態系に与え、それが生物圏の中でどのような連鎖反応を起こすが判断できない以上、今我々にできることは、遠い未来の人類(滅亡していなければ)が取り扱える形で、20世紀の負の科学の遺産を引き継ぐことしかない。それが不可能であるならば、その原因物質を作り出すことを即刻止めるべきであろう。20世紀にプラスチックが開発されたときに、その残滓がマイクロプラスティックになって、海洋汚染を引き起こし、その回収が不可能になることを誰が想像したであろう。この過ちを繰り返してはならない。
 科学の発展に伴って19・20・21世紀には、われわれは原子力を用いた爆弾や放射性廃棄物、猛毒の化学物質や生物兵器など多くの負の遺産を作り出してしまった。これらの負の遺産は、決して未来の人類に負債として残すべきではない。
参考:小田垣孝「科学者の責任」(科学、2012年5月号、岩波書店)

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ウクライナを憂う [オピニオン]

20世紀に二度の世界大戦を経験し、それに学んだ今世紀には大きな戦争はないのではないかと楽観していましたが、ロシアのウクライナ侵攻を見て驚くとともに、一人の愚かな独裁者によってこのコロナ・極寒の中で多くの市民と兵隊としてかり出される若者の命が奪われることに大きな憤りを覚えます。
 ウクライナは私にとって忘れられないところです。1977年の6月にウクライナのリヴィウ(そころはルボフと呼んでいた)で開催された「金属・非金属転移」の会議に招待され、モスクワを経由して、キエフ、リヴィウを妻と一緒に訪問しました。初めての外国旅行、また初めての国際的な会議での発表で、緊張しつつも全く異なる文化に大いに刺激を受けた旅行でした。ソ連時代ですから、国営の旅行会社のインツーリストが完全にコントロールしたものでしたが、若い女性通訳が案内してくれたキエフは、街路樹が多くとても美しい街並みでした。
 キエフからリヴィウへは、小さな飛行機で向かったのですが、悪天候で遅れると共に、飛行中は大きく上下に揺れ、乗客は全員声を上げることなく無事な飛行を願っているのを感じました。多分夜10時頃だったと思いますが、無事着地すると大きな歓声が上がりました。到着後、順にタラップを降りたのですが、私たちがタラップを降りると、なんと地上に10人ほどの人が横一列に並んで出迎えてくれ、妻には花束が渡されました。多分、日本からよっぽど有名な研究者が来ると勘違いしたのでしょうね、後にも先にも国際会議に出かけた街の空港で出迎えられたのはこの時だけです。
 リヴィウ滞在中は、4人の同世代の研究者が私たちの世話をしてくれました。会議中はその内の1人の研究者が隣に座って英語訳をしてくれていました。妻には研究者の1人が付き添って、毎日街を案内してくれました。そのころリヴィウは、前世紀の雰囲気を思わせる街並みで、泊まったホテルは、部屋の天井が4mくらいある古い宮殿のようなところでした。英語訳をしてくれた研究者は、私たちと数人の研究者をアパートに招いてパーティーをしてくれました。
 この時出会った人々、ウクライナの人々が、愚かな独裁者に屈することなくこの困難なときを無事に切り抜けられることを切望致します。

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汚染水海中放出と脱炭素 [オピニオン]

コロナ禍で人々の関心がコロナに向かっている中で、政府はこの春に二つの見逃す事のできない決定をしました。福島の原発事故後たまり続ける放射性汚染水を海中放出することと、2030年に向けて温室効果ガスの46%(2013年比)削減を行うというものです。
 汚染水は、放射性物質のトリチウム(T)を含んでおり、放出しても良いという根拠として、多くの原発ですでに放出されていること、国際基準以下の濃度に薄めること、自然界に存在することを挙げています。自然界に存在する以上にTを増やした場合、長期的にどのような問題が生じるかという科学的問題は、「科学的に答えることの出来ない」典型的なトランスサイエンスの問題であり、国際基準はその疑問に答えるものではありません。放出される汚染水のTの濃度が問題ではなく、現存する量をどれだけ増すかという量そのものが問題であり、自然界にあるから放出しても良いという事はあり得ません。実際、温室効果ガスは、産業革命以後どんどん放出されるようになりました。当初は「二酸化炭素は自然界にあるから問題ない」と信じられていましたが、100年後の今不可逆的な変化を引き起こすまでになっています。三重水 T2Oは水と同程度には電離し、容易に他のHと置き換わることは否定できませんから、Tが完全除去できるまでは汚染水を放出すべきではありません。
 多くの生物が共存する地球環境は、太陽エネルギーを唯一のエネルギー源として進化してきたものです。その過程で地下に埋蔵された化石燃料を産業革命以後大量に用いるようになったことから温室効果ガス問題が生じています。温室効果ガス削減の取り組は、「脱炭素」ではなく「脱化石燃料」であるべきであり、それは地球環境を太陽が存在する限り、持続させる取り組みでなければなりません。原子力発電は、現代人が抱えた未来への大きな「負の遺産」であり、「脱炭素」の掛け声の裏で、原子力発電が推進されることがあってはなりません。すでに、論考「太陽エネルギー循環社会を目指そう」で指摘していますように、太陽エネルギーは最も効率よく利用されなければなりません。最近、多くの農地や丘陵地でメガソーラーを見かけますが、これらの土地の内多くは、なお植物が育つ場所であり、メガソーラー設置による森林破壊や農地の不毛化は即やめるべきです。少なくとも、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)などでの活用が必須です。太陽エネルギーは、食料、材料となる植物を通して最大限利用されるべきです。

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コロナ禍の大学入試について [オピニオン]

令和3年度入学者向け大学の入学者選抜は、共通試験が「大学入試センター試験」から「大学入学共通テスト」に変更され、さらに民間英語試験の導入が取りやめになるなど混乱してきたが、さらに各大学ではコロナ禍で個別入試の実施に苦慮されている。そんな中、横浜国立大学では個別学力試験を実施しないという決断をされた。この決断を称えると共に、この困難な時機を千載一遇の時と考え、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学協会、日本私立大学連盟が連携して、大学入試の抜本的な改革を行われることを期待している。各大学で行われている個別学力試験に費やされる教員/職員の労力は計り知れず、その労力が本来の教育/研究に向けられることを願うものである。

ブランダイス大学に在職していたときに、アメリカにおける大学の入学者選抜について、同僚の教員やアドミッションオフィスの職員に聞いたことがある。アメリカでは、20世紀の初頭、それまで行われていた個別の入学試験を止め、入学者選抜の標準化を目指して、12大学が共通試験を導入した。それが現在のSATとなり、その後ACTも導入され、何度かの改革が行われて、現在の個別の入学試験を行わない選抜方法に至っている。大学の入学者選抜は、「大学教育を受けるための準備ができているか否かに基づくべきであり、オリンピックのように緊張した状態の試験による競争で決めるべきではない」という考え方が基本になっている。

2006年神戸大学で行われたシンポジウム「理系AO入試を通じた高校と大学の接続」において基調講演「これからの科学者養成に期待すること」を行った。


横浜国立大学で行われるように、共通テスト、高校からの報告書、本人の志願書によって、選抜することが高等教育の教育改革に繋がることを論考するものである。多くの大学がこの方向の入試改革に取り組まれ、新たに導入された総合型選抜(旧AO入試)を拡充されることを期待している。

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コロナ禍の大学教育の再開に向けた提案 [オピニオン]

COVID-19 は、世界的には多くの国でなお拡大しているようだが、日本では新規感染者が減少傾向になると自粛を緩和する政策が採られており、その対策こそが第3波を起こすことになることが危惧される。多くの大学は学内でのクラスター発生を恐れて、少なくとも一部の講義をオンラインで行うようだが、学生から授業料を減額を求める動きも起きている。私自身の大学、大学院時代を見ても対面での授業や研究室での輪講などからはるかに学ぶことが多かったし、その後40年ほど教壇にたって、教科書に書かれていない行間の考え方は、やはり対面授業でこそ教えられたものと思う。中には「授業では、情報のありか、参考文献を示すだけで良い、後は自分で勉強するものだ」という教授もおられたが、それは自ら教えるものを持たないことを宣言されているに等しい。

現状で対面授業を再開するには、教室内やキャンパスでの、感染をゼロにする施策が必要である。アメリカのハーバード大学(https://www.harvard.edu/coronavirus)など多くの大学では、キャンパスに入るのにPCRテスト陰性を条件にしており、大学自身で定期的にPCRテストを行い、週に複数回テストを受けることを義務づける大学もある。

大学での対面授業の再開には

1)学生、教員、職員すべてに、大学独自のPCR 検査を実施し、常にPCR テスト陰性者のみのキャンパスにする

2)自宅待機となる陽性者に向けて、講義をオンライン配信する

3)各講義の受講者数が部屋の座席数の50%以下になるように、開講数を増やす

有効なワクチンが開発されるまで、「知の継承」の質を落とさないために、大学はキャンパスを閉じるだけでなく、英知を結集した最善の方策が求められている。

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脆弱な日本の基盤ー誰がしたこんな国に [オピニオン]

パンデミックCOVID-19は、日本でも爆発的感染が起こりそうな事態になっている。自分がうつらないと言うことは大切だが、ほとんど症状のない感染者が他の人にうつさないということが極めて重要になっている。

 外国との往来がほぼ停止し、日本の観光産業を始め、工業生産や農業にも重大な支障が生じている。かっては「科学技術立国」を目指していたのであるが、いつのまにか最近は「観光立国」を目指し、外国人観光客を増加させてきた。また、多くの工業生産が外国に拠点を置き、部品も外国から調達しているものも多い。さらに、農業の生産現場では、技能実習生という形の外国人労働者に頼っている所も多い。また、ホームセンターで見かける多くの日用雑貨が輸入品であり、今や日本は「外国完全依存立国」という感が強い。農林水産省によれば、2018年度の日本の食料自給率は37%(カロリーベース)であり、先日の報道では、小麦の備蓄は2ヶ月分、米の備蓄は6ヶ月分だそうだ(参考:https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/3-1.html)。これらの事実を見ると、日本の基盤の脆弱さに驚かされる。最近の政権がこのような国に変えてきたのであるが、このパンデミックにより、外国との間の物流が閉ざされて、国の存立が危うくなるようなことがあれば、誰がどのように責任を取るのであろうか。

 モンロー主義を取る必要はないが、国の構造を、少なくとも自立して存続できるような形に変えることが求められている。3.11 により、科学技術の従来の進め方が問われているという論考


を、先に示しているが、このパンデミックを、日本のあり方、また「グローバル化」を見直し、それぞれの国が「エコトピア」となるような新しい世界のあり方を問う機会にすべきだ。

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若手研究者には,年700万円の研究費ではなく安定な雇用を保障せよ! [オピニオン]

日本経済新聞や朝日新聞の情報によると、政府は経済対策の一部として、40歳までの若手研究者700人に、最長10年間にわたって平均で年700万円(最大1000万円程度)を助成することを検討しているらしい。これはいろいろな指標により、沢山引用される日本発のオリジナルな研究が減っていることへの対策として考えられたものであろうが、若手研究者に多額の研究費を与えれば良い研究成果が挙げられるというのは幻想にすぎない。むしろ、多額の研究費が、「研究費を消化するための物品購入」や「研究不正への圧力」になりかねない。若手研究者を支援するためには、非正規雇用のような研究職ではなく、安定した教育/研究職についてもらうこと以外にはないと思う。特に、大学の教員の数が大幅に削減され、企業でも博士をもつ人の採用は伸び悩み、博士取得、博士研究員の後のキャリアーパスが極端な隘路になっていることを改善することが最も重要である。科学振興政策を、単に予算をばらまく経済政策とするのは間違っている。

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大学入学者選抜について [オピニオン]

昨日の大学入試に関わる英語の民間試験導入の延期により、高校生は耐えがたいほどの困惑を感じているものと思います。これまでの入試制度の改変を見ていますと、常に文部科学省関係の外郭団体が太り、教育関係業者が潤う形になっているように感じます。13年前になりますが、神戸大学で行われたシンポジウム「理系AO入試を通じた高校と大学の接続 ― 21 世紀における科学者養成の新展開を目指して ―」において、当時の九州大学理学研究院長として基調講演を行いました。その講演内容は、シンポジウムの報告書


の9-14頁に掲載されています。最後のところで、大学入試の抜本的な改革を提案していますので,ぜひ読んで下さい。現状の混乱は、このような方向で解決するのが最善と思います。この方向の改革をぜひ実現していただきたいと思います。

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九州大学伊都キャンパス完成記念式典 [オピニオン]

2018929日に九大椎木講堂で開催された九州大学伊都キャンパス記念式典は、九州大学の福岡市東区箱崎地区から西区元岡地区への移転の本質を見事に示すものであった。一応招待状を頂いての出席であったが、元学部長などは一般参加者と同等の扱いであり、招待者席の大半は政治家、地元大企業の代表、地元行政の長、いくつかの他大学学長であった。麻生太郎大臣を始め多くの方の挨拶では、「272ha の日本最大規模のキャンパス」「27年にわたる移転の大事業」が称えられ、箱崎ではなく伊都に「新しい学問の府」を作ることの意義・必然性はほとんど聞かれなかった。また、現場の先生や学生からの歓迎あるいは決意の表明は聞かれなかった。式典の後に開かれた立食式パーティーの最初に行われた「鏡開き」の木槌を持った人は30人、学長、元学長を除くその大部分が地元出身の国会議員であったのには驚いた。結局の所、この移転事業は「移転すること」をできるだけ大規模に行い、国費によって地元の経済が潤うことが主要な目的であり、それが達成されたことのお祝いの会のように思えた。当初計画されていた市の中心とキャンパスを結ぶ新交通システムがいつできるのかは全く不明だが、現場の先生・職員の方々と学生・院生が、今後このキャンパスを学問の府として育てていってくれることを願うだけである。


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