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国立大学法人法改定ー異世界を目指す岸田政権 [オピニオン]

 ニュースとしてあまり大きく取り上げられてこなかったが、12月13日に国立大学法人法の改定案が参議院を通過し、成立した。おりしも自民党のいくつかの派閥の裏金問題が明らかになり、その陰に隠れてしまったものと思われるが、大学関係者の強い反対があったにもかかわらずメディアはこの問題を大きくは取り上げなかった。
 改定の最も大きな点は、規模の大きな大学を政令で指定して「特定国立大学法人」とし、特定国立大学法人には「運営方針会議」を設置することを義務付けることである。この組織は、今後選定されることになっている国際卓越研究大学に義務付けられるものであるが、予算をつけずに大規模大学にこの運営組織の導入を義務付けるものである。かって大学院の重点化が大規模大学だけで計画されたが、今や多くの大学がそれにならったように、大規模大学を抑えれば他の大学は率先して運営方針会議を設置する「準特定国立大学法人」を目指すだろうことを想定しての施策であろう。
 国立大学法人には、すでに「経営協議会」の設置が義務付けられている。この協議会は、経営に関する重要事項を審議する機関であり、半数以上の学外委員から構成される。筆者が九州大学理学研究院長のときに経営協議会の委員を務めたが、おおむね大学執行部の案を追認するだけの会議であった。
 新たな運営方針会議は、➀運営方針事項を決定する,②運営をチェックし、改善要求ができる、③学長選考・監察会議に意見を述べられる、権限があり、学長及び3人以上の運営方針委員で構成され、委員の任命には文部科学大臣の承認が必要である。つまり、現在の経営協議会では、教育や研究内容に踏み込んだ提言はできないが、これを改め大学の運営方針事項(中期目標・中期計画及び予算・決算に関する事項)を完全に文部科学省のコントロールの下に置こうということであろう。
 この仕組みを見てすぐ思い浮かぶのは、戦前に各大学に派遣された配属将校である。運営方針会議の権限が強まれば、政府の意をくんだ委員により大学は動かされることになる。今回の国立大学法人法の改定は、こんな危険性を孕んでいるものであり、大学を中心とする文教政策の重要な分岐点になることが危惧される。
 岸田首相は多くの「異次元の政策」を掲げているが、時間軸を逆転させた空間は、異次元ではなく異世界であろう。すでにこのブログで書いているように、コロナ問題、福島汚染水の海洋放出、原発の再稼働、少子化対策、学術会議問題などの政策は、すべて歴史に逆行する異世界の政策と言わざるを得ない。