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原発処理水の海洋放出に反対する [オピニオン]

 東京電力は、政府の方針に従って、たまり続ける福島第一原発の処理水の海洋放出のための設備工事を始めた。処理水には、放射性のトリチウムが含まれているが、政府は、「基準以下の濃度に薄めて放出するから影響はない」「イギリスではすでに放出されている」などと正常な科学的判断では受け入れられない理屈で、海洋放出を決めた。低レベル放射能の環境や人類に及ぼす影響は、「科学的な問題だが科学的に判断できない」いわゆる「トランスサイエンスの問題」である。海水中に放出された放射性物質が、減衰するまでの間にどれだけの影響を生態系に与え、それが生物圏の中でどのような連鎖反応を起こすが判断できない以上、今我々にできることは、遠い未来の人類(滅亡していなければ)が取り扱える形で、20世紀の負の科学の遺産を引き継ぐことしかない。それが不可能であるならば、その原因物質を作り出すことを即刻止めるべきであろう。20世紀にプラスチックが開発されたときに、その残滓がマイクロプラスティックになって、海洋汚染を引き起こし、その回収が不可能になることを誰が想像したであろう。この過ちを繰り返してはならない。
 科学の発展に伴って19・20・21世紀には、われわれは原子力を用いた爆弾や放射性廃棄物、猛毒の化学物質や生物兵器など多くの負の遺産を作り出してしまった。これらの負の遺産は、決して未来の人類に負債として残すべきではない。
参考:小田垣孝「科学者の責任」(科学、2012年5月号、岩波書店)

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