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科学者の行動規範 [研究]

先に新型コロナウイルス感染症に関する考察を公開してから、実に多くの方から意見を頂いた。90%以上の方は賛同され、何人かの方からはお褒めの言葉を頂いた。また、何人かの方は計算を丁寧にフォローして内容を精査され、ミスプリを指摘された。さらに、多くの方がモデルを用いて各国の感染状況を詳細に分析されている。それらの方々以外には、PCR検査の精度の問題や過去の隔離政策の負の側面を指摘され方もおられたが、丁寧に説明し、すべて納得して頂いた。ところが、とんでもない行動を取った元医師がいた。この元医師は、「疫学調査以上のPCR検査は不必要である」という主張をしている人である。元医師は、論文を読まずにあるいは読んでも理解できなかったのであろう、テレビの情報と考察部分の文言の曲解から、「論文は基本的に間違っている」という意見を雑誌の編集長に送り、論文の削除を求めた。戦前、政府・軍部が都合の悪い論説を、検閲によって削除させたのと同じことをしたのである。これは、「科学研究の成果については、かならず公の場で発表し、問題があれば同じ雑誌上で論争する」という、これまで培われてきた「科学研究の自由を守る」ための科学者の行動規範を頭から踏みにじる行為であり、科学論文に対する検閲行為をしようという科学界全体に対する挑戦である。編集長は、著者の了解なくいったん論文を目次から削除されたが、私の説明により、ことの重大さに気づかれ、現在は、一部曲解されそうな語句を修正したものが公開されている。

SIQRモデルは、感染係数、隔離率、治癒率の三つのパラメータだけで記述されており、「検査数」という非物理的な量は、一切出てこないことは、論文を読めば直ちに分かることである。コントロールの仕方や考察の中での、隔離率を増やすには検査数を増やす必要があるという説明をとらえて、「隔離率を議論するのに検査数を持ち出すのは間違っているから、論文は間違っている」と言う主旨の主張を編集長に送り付け、削除を求めたらしい。

かって、Physical Review Letters に掲載されたM. Lax との共著論文に対して、ある著名な物理学者からコメントがあった。その時は、編集長から返答が求められ、コメントと返答が同時にPhysical Review に掲載された。これが、正常な科学の進め方である。現在の接触自粛が求められいる間、多くの方がコロナに関する科学に触れ、また多くの方が研究や考察を行われていると考えられるが、「科学者の行動規範」は科学の健全な発展のためにすべての人が守るべきものである。


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SIQR モデルについて [研究]

SIQRモデルを用いた日本におけるCOVID-19の感染状況の分析をまとめた英語論文を書き、プレプリントをmedRxivとResearchGate に上げました。この研究は、4月18日頃から始め、他の文献にほとんど当たることなく、独自のアイデアで思いついたもので、日本における感染の状況の理解と収束させるための対策の評価を主要目的として行ったものです。感染症の専門家から「21世紀型の感染症モデル」と言われたりしていましたが、まさかと思っていました。プレプリントをアップロードしたところで少し文献を調べてみると、案の定2002年にすでにSIQRモデルが考えられていました。最初の頃の研究では、長時間における振舞いのみが解析されています。今年の3,4月の研究(プレプリントのみ)は各国の感染初期データの分析から、その後の感染曲線を予測することに重点が置かれていますが、収束させるための様々な対策としての検証はほとんど行われていません。ただ、政府が3月頃に目指していた感染曲線のピークを下げるためには、ロックダウンだけでなく感染者の隔離が大きな効果を持つことは、10年以上前から知られていたことになります。これは謂わば「守りの対策」になりますが、私の考察は「攻めの対策」として、検査・隔離体制の強化を主張するものです。

長時間経過した後の平衡点の分析や感染曲線に対する隔離の効果:

・H. Hethcote, M. Zhien, L. Shengbing, Mathematical Biosciences 180 (2002) 141–160

・W. Jumpen, B. Wiwatanapataphee, Y.H. Wu, I.M. Tang, Int.J. Pure & Appl. Math. 52(2009) 247-265

アウトブレイク初期の解析とその後の振る舞いの予測:

・イタリア:M. G. Pedersen, M. Meneghini, ResearchGate(結論はSocial distancing が大切)

・インド:  Alok Tiwari, medRxiv(感染曲線に興味)

・スウェーデン:L. Sedov, A. Krasnochub, V. Polishchuk, medRxiv(ドローンによる検査で感染曲線を下げる)


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新型コロナに関する論文(改訂版)が電子ジャーナル掲載 [研究]

先に公開しておりました「新型コロナウイルス蔓延に関する一考察」の改訂版(v3)が物性研究(電子版)に掲載されました。(6月22日にv5 に差し替)


プレプリントに対して頂いた多くの方々の意見は、この論文の改訂に大変参考になりました。この場で、御礼申し上げます。隔離率をquarantine を反映させて、p からq に変えました。また隔離感染者の治癒時間と市中感染者の感染力のなくなる時間の区別は大切ですので、記号を変えました。パンデミックの解析に必要なのは、(5)式だけですが、この差はモデルの考え方には重要な役割をします。

まとめの節の考察で加えましたように、従来より伝染病対策は発症した感染者を街から取り除いて、新規感染者が出ないようにするというものでした。法定伝染病に対する考え方ですが、今も生きていると思います。政府が新型コロナウイルスによる感染症を指定感染症としたのは、そのためのはずです。新型コロナウイルスでは、発症した場合は検査によってある程度の確信を持って隔離できるだけでなく、他の伝染病では見られない無症状感染者を検査で発見して、隔離できるという特徴があります。論文は、数理モデルを用いて、その隔離の大切さを改めて明らかにしたに過ぎません。クルーズ船の時の対応も分かりにくかったですが、いつのまにか検査/隔離は、重症になりそうな人を早く見つけ出して治療するためのものに変わり、できるだけ普通の人は検査をしない方針に変わりました。その後、自宅隔離やホテルなどでの隔離の仕組みが作られ、多くの専門家が検査/隔離の体制構築が大切だと言われています。政府が、真摯にこの声に耳を傾けて、本来の伝染病対策に戻ってくれることを願います。

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Research Gate [研究]

最近Research Gate に登録しました。ご存知の方が多いと思いますが、研究者のSNSでかなりよく網羅されているように思いました。早速旧知の研究者の名前を見つけ、コミュニケーションを再構築できました。一人は、ランダム系の専門家のHarvey Scher さんで、Scher-Zallen の本や Dispersive Transport のScher-Laxの論文、CTRWの応用など多くの研究があります。12年ほど前にエルサレムでお目に掛かったのが最後でした。もう一人は、Michael Shlesinger で,Montroll との仕事などRandom Walk に関する優れた仕事が沢山あります。この二人とは、アメリカ時代から親交があり、また1990年頃に二人を京都市内を案内したこともあります。二人とも、レビューを書いているらしく、見るのが楽しみです。

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京都工芸繊維大学で研究討論 [研究]

昨年末と今日、京都工芸繊維大学の水口助教と研究討論をしました。主に、アミロイド問題とガラス転移に関わる協調緩和領域について議論し、それぞれについて進歩がありました。今後の研究の発展が楽しみです。

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東北大学で研究討論 [研究]

東北大学工学部の吉留助教との研究討論のために,仙台に来ています。昨日の講演の後から、今日の夜まで、夕食の時間も含めて、非平衡系の自由エネルギーランドスケープ描像について討論しました。これまでのDFTの方法の非平衡系への適用に於いてこれまで考慮されていなかった点を取り込むことにより、過冷却液体のガラス転移の完全な理解が可能になると確信しました。また、関連するその他の問題についても議論が進み、今後の発展を楽しみにしています。

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S.P. Das教授 来訪 [研究]

インドのS.P. Das 教授が、研究所を訪問しました。昨日4月16日に京大基礎研でセミナーがあり、その話を含め様々な課題について、議論しました。特に自由エネルギーランドスケープ描像について、それぞれのもっている課題について議論し、今後の課題を明確にしました。昼食時には、近くの竜安寺を訪問し、境内の料亭で議論を続け、さらに方丈の廊下で石庭を眺めながら議論しました。新しい課題として浮上したのは、FEl描像で、温度を下げたときに出現する結晶あるいはガラス状態に対応する極小点が出現する仕組みで理解するかと言うことです。早速少し考えています。

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科研費による討論会「ガラス転移と関連する問題」 [研究]

4月13日に、京都工芸繊維大学において科研費による研究討論会を行いました。参加者は、猿山、深尾、辰巳、水口諸先生、小田垣および大学院生1名です。「エージング」、「アミロイドーシス」、「温度変調応答」、「ピニングのある系のガラス転移」、「RMC」などについて、午前中から昼食時を含み、夕方まで大変密な議論ができました。特に、現在の到達点と問題点が明らかになり、今後の研究の方向性を確かめることができました。少人数による密な討論会は、研究を進める上で極めて有効で、今後も年に数回は開きたいと考えています。

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複雑系ワークショップ [研究]

イタリアのAndaloというところであったXV International Workshop on Complex Systemsに参加しました。エージングに関する最近の成果を発表しました。ボソンピークやプラスチック結晶など既視感のある発表が多かったですが、圧力変化によるガラス転移とエージングの研究は興味が持てました。また、ベニスのMurano島でガラス工業の視察をしました。ガラス博物館の展示は見応えがありました。またベニスにはパーコレーションを応用したポッツォという井戸があり、中世の頃からその原理が知られていたようで、大変参考になりました。

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共通テーマ:学問

放電に関する論文がonline に [研究]

JSPSに投稿していた論文”Theoretical Study of Discharge in a Nonlinear Medium” by S. Matsumoto and T. Odagaki がonline で公開されました。与えられた電圧の下での放電現象が、1次相転移のように不連続的に起こることを示した重要な論文です。


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