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新型コロナ雑感2 科学的な根拠について [コロナについて]

科学的な根拠について
新型コロナ対策として、実際に報告されている数値と関連づけて、様々な関係が議論されています。ここでは、これまで用いられていると推測される方法や提案されている指針などを検討してみます。いくつかの例は、研究の倫理規程にあっておらず、このような非科学的主張によって政策が決められないように、一人の科学者として切に思います。
1.実効再生産数:実効再生産数は、新規感染者が増加する割合と除去(治癒するか隔離)される割合の割り算で定義されます。未感染者数を人口全部とするか、人口から感染した人と治った人の数を引いたものにするかで少し値は変わりますが、感染症蔓延の初期ではあまり差はありません。この比が1より大きいと感染が拡大し、1より小さいと感染は収束します。よくテレビなどでは、一人の感染者が何人の人に感染するかを表す数字と説明されていますが、1日で感染させる数なのか1週間で感染させる数なのか疑問に思われて、もやもや感が増えるものと思います。答えは、感染者が感染させなくなるまでの時間の間にということです。接触8割削減というのは、分子の新規感染者数を小さくしようというものです。普通のインフルエンザの場合、自宅待機の隔離と薬による治療により、分母を大きくして、有効再生産数を1より小さくする方法が採られています。新型コロナウイルスの場合、市中にいる無症状感染者の感染力がなくなる期間が問題になりますが、その値は今のところはっきりしません。論文等は、この日数を30日とした結果を示していますが、15日にすると少し図はずれます。その場合、2倍の隔離率で5割行動削減で1/10になるまで18日くらい、現在の検査率で都市封鎖するのと同じくらいになります。実効再生産数の定義の分母に入っている隔離率を大きくすると、当然実効再生産数が小さくなり、収束が早まるというのが論文の一つの結論です。メディアでは取り上げていませんが、仮に隔離率を観測データから見積もれれば、その日の隔離された人の数(陽性者)を隔離率で割ったものが市中感染者数となります。隔離率が0.2だと5倍、0.1だと10倍、0.5だと20倍、と見積もることができます。これまでのSIRを用いたモデルでは、日々観測できる隔離者数をあらわに取り扱ってきませんでしたから、そのまま用いると、新型コロナの感染の様子を理解するのに苦労することになります。

2.陽性率:東京都の定義によると、陽性率=陽性者数/検査数です。これは割合の問題ですから、小学生でも習うことだと思います。例えば、黒と白との碁石を50個ずつ持ってきて、よく混ぜたあと目をつむって10個取り出すと、多分白黒半々位になっていることが多く、何回かの平均を取ると黒の割合は50%になります。一方黒が多いような取り方をすれば、当然黒の割合が増えますが、全体の中の黒の割合もそのように大きいと結論づけると、多分先生からよく考えなさいと言われます。つまり検査の対象とした集団(母集団とよびます)の取り方で、陽性率はいくらにでもなりますから、陽性率はむしろ母集団の選び方の特徴を表しているに過ぎません。検査による隔離の効率を上げるには、お医者さんからできるだけ陽性者らしい人を選んでもらい、検査場に送ってもらいます。この時陽性率が高いと、医者の見立てがよく、隔離の効率が上がります。陽性率が低いと、市中の感染者の割合は低いか、医者の見立てが悪いか分からなくなります。現在、陽性率から市中感染率=(自治体内の無症状者の数)/(自治体の人口)が推定できているのか、陽性率の低さを自粛解除の判断基準の一つにされかけています。この推定の科学的根拠を是非明らかにしてほしいと思います。陽性率を判断基準とするのは大変危険です。このように科学的根拠のない仮定で論文を書くと、即座に掲載不可になるでしょう。最近あるクリニックの先生が、来院した人を検査すると、陽性者がだんだんと減ってきて、今はゼロになっていると、その医院の陽性率を説明していました。これは、来院されるような症状を持った人の中には感染者はいないことを示すに過ぎません。現在問題になっているのは、市中にどれくらい無症状感染者がいるかということであり、病院に来られた人の陽性率と市中感染率の隔たりは、かなり大きいでしょう。まだ余裕のあるPCR検査あるいは抗原検査を用いて、サンプリング検査(新型コロナ感染率調査~コロナ調査)をやり、その結果と1.の方法による推定値の比較から、市中感染率を求めるべきと思います。

私のかかりつけの医者に、市中の感染率はどう見積もるのかを聞いてみました。その先生も最初は、「来院した患者の中の感染者数の割合(陽性率)で見積もる」と言われました。そこで、現在問題になっているのは、「市中無症状者の割合(市中感染率)ですよね」と問いかけると、「あっそうか、それはわからないな」と気づかれました。つまり、お医者さんは普通のインフルエンザの時のように、来院者に対する感染者の割合(その医院での陽性率)で、感染率が見積もれるという考え方が染みこんでいるようです。医者同士の会議の中でそれに異を唱えられる人がいれば良いのですが。

3.陽性率と重症化率の相関およびコロナ死亡者数と検査数の相関について:公的に発表されるデータは、日ごと陽性者数(隔離者数)、PCR検査数、陽性率、重症化率、退院者数位です。これらのデータの時間変化を見て、何らかの関係があると考えてデータを整理するのは、一つの科学的手法ですが、その場合その相関があると考える科学的根拠を示すべきでしょう。最近陽性率と重症化率に、前者が増えると後者も増えるという相関があり、重症化率を下げるには、検査を増やして陽性率を低くする方が良いという考え方がテレビで放映されています。多分重症化率は、重症化した人の数を隔離されている人数で割った割合と思われます。この場合、大切なのは、分子を小さくするように重症者をださない治療が必要であり、この割合を小さく見せるために分母を大きくしても全く意味はありません。もちろん隔離率を上げるために検査数を増やすのは大切な方策です。また、あるテレビ番組でコロナによる死者数は、検査数が多いほど多くなる傾向があり、ヨーロッパは他国の傾向よりさらに上にあるので、検査数を増やされた方が良い、日本は他国と同じくらいだから問題は少ないという主張をされていました。これは、検査数を増やすと死因がコロナと特定できた人の数が増えただけで、何の価値もない相関の見方です。権威のある大学の教授が言えば、市民の方は惑わされるかもしれませんが、このような相関を示す論文を書けば、即却下になります。また、そのような非科学的主張をテレビで放送するなら、テレビ局の科学的見識の欠如を疑います。

4.ヨーロッパ産のウイルス:ウイルスのRNAを調べると、日本では、初期の中国から来たウイルスによる感染は収束し、最近はヨーロッパから来たウイルスにより感染に変わっているという報告がありました。それにより、初期の感染が完全にコントロールできたと主張されています。この報告が論文として投稿されれば、多分もっと調査して論拠を明確にするように求められることと思います。12月から1月にかけて、中国からの訪問者がまだ多く、その間に無症状のまま感染させていた可能性がないことの証明、またクラスター対策で漏れがなかったことの証明が求められるでしょう。たまたま日本にいたウイルスが変異して、ヨーロッパ型に近いものになっていた可能性の否定も求められることでしょう。

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