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日本のコロナ対策は何故迷走するのか? [コロナについて]

 日本におけるCOVID-19も第4波が収まりつつあるように見えますが、オリンピックを強行開催することを目指して規制が緩和されようとしており、7月には第5波に入ることが危惧されます。効果的な対策には、感染状況を正確に把握し、明確な戦略と科学に基づいた戦術が必要なのは論を待ちません。
 日本のコロナ対策には一貫性がなく、また科学的根拠が曖昧で、次々出される政策にいつも戸惑わされます。その原因を辿ると、いくつかの自治体以外は今なおPCR検査を発症者の感染確認のためだけに用いていること、政府(分科会)が定める「感染状況の4段階」が不適切であること、さらに市民を未感染者(S)、感染者(I)、治癒者(R)の三つの集団(コンパートメント)に分けて解析していること、に行き着きます。PCR検査の重要性についてはすでに6月7日のブログで書いたとおりです。感染状況の分類の基準は、5つの指標で明らかにされているように、医療提供体制への負荷、監視体制、新規感染者数によって定められており、コロナ感染症そのものの蔓延状況を正確に把握する内容になっていません。図1は、横軸の新規感染者数の関数として、縦軸に感染者数が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを示す増減率を示した感染状況図です。政府・分科会は、新規感染者数の数(10万人当たり、1週間平均)だけでステージ分けしており、新規感染者数が増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか、さらにどこに向かっているのかを分類に含めていません。また、7日関平均で状況判断される事が多いですが、7日間平均による傾向の判断は、常に3-4日遅れますから、増加あるいは減少に転じたことの判断が遅れます。
分科会.jpgTokyoStatus6-13new.jpg一方、東京都の新規感染者数は、検査数が少なく、データの信頼性は低いのですが、その解析からでも傾向を読み取ることは出来ます。図2の東京都の感染者数の変化から求めた感染状況図(図3)は、感染状況が単純に新規感染者数だけで分類(図中のIII,IV)できないことを示しています。現在は、図3中央の小さな楕円の左端にあります。オリンピックを前にした緩和で、上半面に向かう傾向にあり、無症状者を野放しにしたままでは、第5波になることは確実です。実際、2月8日のブログで示した感染状況を9つの状態に分類する図を再掲しますと、東京都の現状はD-3からS-4に向かっており、
Afig3.jpg人の接触に対する規制が緩和されますとS-4からI-5、I-1に向かう第5波になります。感染者の30%が無症状であるとともに、発症する人も発症前の症状のない間でも感染させることが知られており、無症状者を徹底的に見つけ出して、感染力が無くなるまで、隔離すること以外にコロナを収束させる対策はないと思います。ワクチン接種率が50%を越えるような国でも、新規感染者がなお増加傾向にある、あるいは高止まりしている国もあり、ワクチンだけに頼る対策では、収束までにかなり時間がかかることになります。
 新型コロナ感染の特徴は、感染者の中で無症状の状態で感染させる割合が半分近く、従って感染者を、市中にいる感染力を持つ感染者(I)と病院・ホテル・自宅に隔離(含自己隔離)されて感染させない感染者(Q)に分けなければ、現状を正しく分析することは出来ません。特に、市中の無症状感染者を減らさずに、重症者だけを減らすという政府の戦略では、ワクチン効果が顕著に現れる半年後あるいはそれ以後まで、新規感染者数は波を繰り返して、収束しないと考えられます。

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松ヶ崎サイエンスフォーラム「COVID-19の特徴を理解する」 [講演会]

今日オンラインで開催されました松ヶ崎サイエンスフォーラムは、およそ30名の方が参加され、大変活発な意見交換があり、新しい課題が出るなど期待通りの会となりました。アメリカ、高知、東京など様々な地域からの参加者があって、対面式とはまた異なった会となり、コロナの禍を小さな福に変えられました。コロナ禍が収まった後でも、何らかの形でこの”Webforum”が生かされることを期待しています。
 講演では、これまでの感染症のことと、私がこの1年ほどの間にやりました研究をまとめて「COVID-19の特徴を理解する」というタイトルで話しました。講演で用いたパワーポイントファイル(pdfファイル)を公開しましたので、ご興味をお持ちの方はご覧になって下さい。6月8日までの日本の感染状況も示しておきます。
ファイル2021MSFtop.jpg        2021-6-8Japan.jpg

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松ヶ崎サイエンスフォーラムで講演 [講演会]

松ヶ崎サイエンスフォーラムで講演します。

松ヶ崎サイエンスフォーラムのご案内  幅広い科学の話題についてざっくばらんに議論することを目的として、松ヶ崎サイエンス
フォーラムを開催することにしました。研究者の情報交換や交流の場となれば幸いです。
講演者の自薦他薦を受け付けております。学生の参加も歓迎いたします。
(当面はオンライン開催と致します。)  第1回を下記の通り6月12日に開催いたします。参加を希望される方は、以下のリンク
より登録をお願いいたします。Zoomのリンクが自動返信メールで送られます。 https://forms.gle/qr82x1idyqLB4ba58 第1回 松ヶ崎サイエンスフォーラム(2021.6.12)案内 日時:6月12日(土)10:00~12:00 場所:オンライン(Zoom) 講演者:小田垣 孝(九大名誉教授、科教総研) タイトル:COVID-19の特徴を理解する 講演概要:新型コロナ感染症(COVID-19)には、感染曲線と隔離者数のずれや波状の感染曲
線など様々な特徴が見られる。SIQRモデルは、市民を未感染者(S)、感染力のある感染者(I)、
隔離された感染者(Q)および回復者(R)に分け、各区分の人数の時間依存性から、このCOVID-19
蔓延の特徴を物理的視点から明らかにするものである。SIQRモデルを用いて、感染の特徴や
検査・隔離の効果、またワクチンを接種せずにCOVID-19を収束させた国の特徴などについて
説明する。  問い合わせ先:水口朋子(京都工芸繊維大学)

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日本のコロナ感染は何故収束しないのか? [コロナについて]

 緊急事態宣言が延長され、全国の新規感染者数が減少傾向にありますが、最近は下げ止まりの兆候さえ見えます。先に提案しました感染症のSIQRモデルでは、市中感染者 I のある割合 q が隔離されると考えています。日本におけるPCR検査は、一部の自治体を除き、厚生労働省の指示の通りに、感染者に接触可能性のある発症者のみを対象として行われています。つまり発症率をxとすると、隔離される数は 隔離率を q’ として、q’*x*I となり、残りの(1-x)*I の無症状者は見逃されます。感染者の増加率は、接触自粛率を a, 感染確率をβとすると、(1-a)*β です。人々が、感染者数の増加を見て、危ないと感じると自粛率が大きくなり、(1-a)*β<q’*x となって、新規感染者数が減少します。ある程度新規感染者数が減ると、自粛が緩んで、(1-a)*β=q’*x のときに下げ止まり、(1-a)*β>q’*x になるとリバウンドとなります。市中に残される無症状者 (1-x)*I が、常に感染者を増やし続けますので、ある程度の自粛では、感染は収束しません。
  感染を収束させるためには、無症状感染者を検査で見つけ出し、隔離することが重要です。実際5月初旬において、ワクチン接種率が63%のイスラエルと53%のイギリスでは、ワクチンで感染が収束したように見えますが、検査陽性率はそれぞれ0.5%, 0.8% で日本の10倍くらいのPCR検査が行われていることを見逃してはなりません。一方、ワクチン接種率が45~47%もあるのに、検査陽性率が10%前後と検査数の少ないバーレーンやチリでは、新規感染者数がなお増加しているあるいは高止まりしています。なお、イギリスでは5月末から、δ株により感染が再び拡大しています。
 無症状感染者を野放しにしている日本では、ワクチン効果が出るまでにはかなり時間がかかりますから、日本における感染を拡大させ、さらに世界的な感染拡散の起点となるようなオリンピック・パラリンピックは開催すべきではありません。

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汚染水海中放出と脱炭素 [オピニオン]

コロナ禍で人々の関心がコロナに向かっている中で、政府はこの春に二つの見逃す事のできない決定をしました。福島の原発事故後たまり続ける放射性汚染水を海中放出することと、2030年に向けて温室効果ガスの46%(2013年比)削減を行うというものです。
 汚染水は、放射性物質のトリチウム(T)を含んでおり、放出しても良いという根拠として、多くの原発ですでに放出されていること、国際基準以下の濃度に薄めること、自然界に存在することを挙げています。自然界に存在する以上にTを増やした場合、長期的にどのような問題が生じるかという科学的問題は、「科学的に答えることの出来ない」典型的なトランスサイエンスの問題であり、国際基準はその疑問に答えるものではありません。放出される汚染水のTの濃度が問題ではなく、現存する量をどれだけ増すかという量そのものが問題であり、自然界にあるから放出しても良いという事はあり得ません。実際、温室効果ガスは、産業革命以後どんどん放出されるようになりました。当初は「二酸化炭素は自然界にあるから問題ない」と信じられていましたが、100年後の今不可逆的な変化を引き起こすまでになっています。三重水 T2Oは水と同程度には電離し、容易に他のHと置き換わることは否定できませんから、Tが完全除去できるまでは汚染水を放出すべきではありません。
 多くの生物が共存する地球環境は、太陽エネルギーを唯一のエネルギー源として進化してきたものです。その過程で地下に埋蔵された化石燃料を産業革命以後大量に用いるようになったことから温室効果ガス問題が生じています。温室効果ガス削減の取り組は、「脱炭素」ではなく「脱化石燃料」であるべきであり、それは地球環境を太陽が存在する限り、持続させる取り組みでなければなりません。原子力発電は、現代人が抱えた未来への大きな「負の遺産」であり、「脱炭素」の掛け声の裏で、原子力発電が推進されることがあってはなりません。すでに、論考「太陽エネルギー循環社会を目指そう」で指摘していますように、太陽エネルギーは最も効率よく利用されなければなりません。最近、多くの農地や丘陵地でメガソーラーを見かけますが、これらの土地の内多くは、なお植物が育つ場所であり、メガソーラー設置による森林破壊や農地の不毛化は即やめるべきです。少なくとも、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)などでの活用が必須です。太陽エネルギーは、食料、材料となる植物を通して最大限利用されるべきです。

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