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解説:高校生と大人のためのコロナ対策 [アウトリーチ活動]

パンデミックの時間発展は、集団免疫による沈静化を議論しない限り、簡単な指数関数で表せます。コンピュータ上でグラフを図示するソフト gnuplot で感染者数の推移を見て、どんな対策が良いかを考えてみて下さい。

時刻0における感染者数を100人として, 政府の仮定していたパラメータを用いると、時刻 t (日)における感染者数は指数関数f(t) = 100*exp[(0.5*(1-a) - 0.15*b - 0.05)*t] で表されます。第1項が新規感染者数による増加、第2項が隔離(病院/ホテル/自宅)、第3項が治癒(20日掛かる)による減少を表しています。R=0.5/(0.15+0.05)=2.5 が実効再生産数です。a は、接触自粛を求められる割合を表し、a=0が何もしないとき、a=1 がロックダウン(都市封鎖)を表します。 bは、隔離する効率を表し、b=1 が検査数を変化させない場合、検査/隔離を増やして隔離できる人を2倍にすると b= 2 になります。次の5つの場合について、この関数f(t)を0<t<10において図示して下さい。

(1) a=0,    b=1:指数関数的に増加するオーバーシュートを表します。

(2) a=0.8, b=1:8割接触自粛(隔離は同じ割合)の場合

(3) a=1,    b=1:ロックダウン(都市封鎖)(隔離は同じ割合)の場合

(4) a=0.5, b=2:5割接触削減、検査/隔離を2倍にする場合

(5) a=0.5, b=4:5割接触削減、検査/隔離を4倍にする場合 

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政府は(2)の政策を採りました。接触自粛による社会的影響と隔離された人への支援体制や、重症者への治療体制などを考慮して、市民生活を守りつつ、速くパンデミックを収束させる方策を考えて下さい。

新型コロナウイルスとの戦いは、多くの国で見えない敵との戦争と位置づけ、大統領/首相を総指揮官として、国を挙げての取り組みが行われています。上の計算で分かりますように、検査/隔離する体制を構築して、できるだけ多くの感染者を隔離(自宅隔離を含めて)すれば、パンデミックの収束を早められることになります。これは、昔から行われていた伝染病対策と同じことです。緊急事態宣言発出の決定において、政府は当然このようなシミュレーション結果を見せられていたはずです。その中で、(2)の政策を採ったのは、総指揮官の責任です。PCR 検査を受けらずに、あるいは受けられても手遅れになって亡くなった方が何人もおられ、多数の失業者と多数の倒産者を出した責任は、当然総指揮官がすべて負うべきものです。PCR 検査によって判定された陽性者や死者の数は、感染を抑えられたことを表しているものではなく、そのように見せかける検査体制を取っていたことによるものであり、そのような見せかけを「日本モデル」として誇らしげに語る総指揮官は、万人の信頼を失うことになります。新型コロナウイルスは、肺炎だけでなく血栓症を起こすことが分かってきており、検査を受けられずに市中に残された感染者の中で、どれだけの方がコロナ関連の死因で亡くなったのかを是非明らかにして頂きたいと思います。ドイツなどではPCR検査陽性者数と市中感染者数は、それほど乖離していないと考えられますが、日本では少なくとも10倍ほど違っています。東京都の抗体検査の結果からは、およそ20倍の感染者がいたと見積もられており、現在の世界のトップ10に入る数の感染者がいたと考えられ、日本のあらゆる数値が低いのは、PCR検査数を除いて、全て見せかけに過ぎないと思います。


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解説:小・中学生のためのコロナ対策 [アウトリーチ活動]

緊急事態宣言が解除され、児童・生徒は学舎に戻っていることでしょう。せっかくの機会ですから、簡単な計算をして、コロナ対策の是非をクラス全員で話し合って下さい。

まず、政府が2-4月頃に採用していたモデルでは、街の中に100人の感染者がいると、その日に新たに50人の感染者ができ、20人が病院またはホテル・自宅で隔離されるか治ることになっています。20人の内、15人は隔離される人、5人は治る人とします。次の各場合に、1日後の街の中の感染者の数、隔離された人の数を求めて下さい。

(1) 何もしないとき。[答:街の中 130人 病院/家の中:15人]

(2) 80%の接触自粛(新規感染者が20%になる)政策の場合。[答:街の中 90人 病院/家の中:15人]

(3) 100%の接触自粛(新規感染者が0になる)政策の場合。[答:街の中 80人 病院/家の中:15人]

(4) 50%の接触自粛(新規感染者が50%になる)と隔離を2倍にする場合。[答:街の中90人 病院/家の中:30人]

(5) 50%の接触自粛(新規感染者が50%になる)と隔離を4倍にする場合。[答:街の中60人 病院/家の中:60人]

(1)の場合、1日で感染者の数は1.3 倍になり、10日すると約14倍になります。オーバーシュートと言われる状況です。厳しい接触自粛を求めると、学校や多くの施設が閉鎖されます。一方、隔離された感染者の中で重症の人が増えると、医療現場が大変になることも予想されます。感染症の対策として考えるべき政策は、市民の生活と、病院での十分な治療を守りつつ、できるだけ速く街の中の感染者数を減らすことです。

政府は、(2) の方針を採用しました。皆さんはどうしますか?それぞれの対策の場合に、みんながやるべきこと、国や地方自治体がやるべきことを考え、どの政策がよいかを是非クラスで話し合って下さい。


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新型コロナに関する論文(改訂版)が電子ジャーナル掲載 [研究]

先に公開しておりました「新型コロナウイルス蔓延に関する一考察」の改訂版(v3)が物性研究(電子版)に掲載されました。(6月22日にv5 に差し替)


プレプリントに対して頂いた多くの方々の意見は、この論文の改訂に大変参考になりました。この場で、御礼申し上げます。隔離率をquarantine を反映させて、p からq に変えました。また隔離感染者の治癒時間と市中感染者の感染力のなくなる時間の区別は大切ですので、記号を変えました。パンデミックの解析に必要なのは、(5)式だけですが、この差はモデルの考え方には重要な役割をします。

まとめの節の考察で加えましたように、従来より伝染病対策は発症した感染者を街から取り除いて、新規感染者が出ないようにするというものでした。法定伝染病に対する考え方ですが、今も生きていると思います。政府が新型コロナウイルスによる感染症を指定感染症としたのは、そのためのはずです。新型コロナウイルスでは、発症した場合は検査によってある程度の確信を持って隔離できるだけでなく、他の伝染病では見られない無症状感染者を検査で発見して、隔離できるという特徴があります。論文は、数理モデルを用いて、その隔離の大切さを改めて明らかにしたに過ぎません。クルーズ船の時の対応も分かりにくかったですが、いつのまにか検査/隔離は、重症になりそうな人を早く見つけ出して治療するためのものに変わり、できるだけ普通の人は検査をしない方針に変わりました。その後、自宅隔離やホテルなどでの隔離の仕組みが作られ、多くの専門家が検査/隔離の体制構築が大切だと言われています。政府が、真摯にこの声に耳を傾けて、本来の伝染病対策に戻ってくれることを願います。

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新型コロナの対策の考え方の説明 [コロナについて]

研究をテレビでも紹介してもらい、メールなどで市民の方からも色々と質問が寄せられ、大変参考になっています。本来ブログへのコメントを可能にすれば良いのですが、対応できない失礼を避けるために、申し訳ありませんが現在の設定にしております。

最近色々なメディアと接触していて、各局の立場がよく分かります。アンデルセン童話「裸の王様」を見ているようです。政府および政府がその科学的根拠としている専門家会議に異を唱える意見(としか見られていませんが、科学的真理です)ですから、及び腰になる(裸だと言えない)のでしょう。まず新聞は紙面では取り上げないですが、取り上げて頂いた朝日新聞電子版には敬意を表します。今のところ恐れずに紹介してくれているのはABCやTBS系のニュースショウが多いです。地元のテレビ局は、取材に来てニュースで紹介してくれたところもあります。

政府も専門家会議から詳しい説明を受けておられたものと思いますが、感染症の蔓延対策は、子供でも分かる簡単なことです。それを説明しておきます。記号を使う方が説明しやすいので少し使います。

A:毎日市内で発生しているであろう、新規感染者

B:毎日の、発症が確認されて、隔離される感染者、治る感染者(病院で治る人、市中で治る人)、亡くなる方

AがBより大きいと感染が拡大し、AがBより小さいと感染は収束します。AとBの大きさの比較が大事だということは、誰も反対しません。AとBの大きさを比較する場合、単にAとBのそれぞれの大きさを見れば良いのですが、A-Bが正か負で判断できますし、A/Bの比が1より大きいか、小さいかでも判断できます。四則演算で分かり易いのは加減で、不得手とする人が多いのは乗除でしょう。割り算を暗算でするのが大変なように、比で大きさを比較する場合、分母、分子で共通の因子は消えますので、注意が必要になることもあります。

さてAは、ウイルスの感染力、未感染者の数、市中にいる感染者の数、未感染者と感染者の接触頻度で決まります。それを小さくする方法としては、ワクチンの開発、未感染者の数を減らす、市中にいる感染者の数を減らす、接触頻度を減らすことが考えられます。

一方、Bを大きくするためには、症状の出た人は、厳しい「目安」を付けずに、さらにその接触者の症状の出ていない人も含めて検査し、感染者をできるだけ多く隔離すること、市中の感染者ができるだけ速く感染力をなくすようにすることになります。今開発が努力されている治療薬は、隔離感染者を速く治し、死亡者も減らそうという努力になり、また、仮にかかったときの安心感にもなりますので、大切なのですが、市中の感染者には投与できません。

ここで、このブログの読者に質問です。自分が首相になって、「AをBより小さくする政策を考える」ことになったら、どういう政策を採りますか?。。。。。。答えを考えてから、続きを読んで下さい。

政府が採った政策は、PCR検査/隔離は死者をできるだけ減らすために重症者を見つけ出す手段と考え、接触頻度を市民の協力で8割削減し、Aを小さくするものでした。

スウェーデンでは、感染症が蔓延して、抗体を持つ人が増え、未感染者が減ることによるAの減少を待つという政策が採られています。その状態になるまでは1年位はかかると思いますが、その間に亡くなる方はやむを得ないという考え方のようです。

私の提案は、PCR検査/隔離は、市中の感染源を減らすためにやり、そうすればBを大きくできるというものです。

ブログの読者の政策はどうだったでしょうか?

比をとって考える際に、重要となるのは、時間の単位をどうするかです。例えば、1秒を単位にするのか1時間にするのか1日にするのかを迷います。普通理論的解析では、現象に固有の時間を単位として用います。従来の感染症の理論では、治癒するまでの日数を単位として理論が組み立てられています。私が学生を指導していたときも、常に何を単位するか考えさせました。一方、単位を消去して得た結果を実際の予測などに当てはめるときは、実際の時間に戻す必要があり、そこで混乱するととんでもない結論が出てしまいます。学生の研究結果をチェックするときは最初に見るところです。

安倍首相が、宣言解除の条件の一つとして、「新規感染者の数が退院者の数を下回れば良い」と記者会見で言われていました。今分かるのは、市中の新規感染者(Aの中の)ではなく、日ごと陽性者数=隔離数(Bの中の)のはずですから、安倍首相の条件は病院の空きベッドの数が増えれば感染が収束に向かっているという判断になります。市中の無症状感染者が問題なのにそれでいいのかと不安になるのは私だけではないはずです。

市民の方も何となくおかしいと気づかれているようですが、どこがおかしいか言えないもどかしさがあると思います。この説明が、市民の方々がコロナ問題を考えられるときの参考になれば幸いです。

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新型コロナ雑感3 出口対策について [コロナについて]

出口対策について

接触8割削減を求めた緊急事態宣言が継続され、それを解除する条件が議論されています。国の基準が曖昧なのに対して、各自治体は明確な数値基準を定めようと努力されています。また、解除後の市民生活や学校での生活にできるだけ支障を来たさず、スムーズに行く仕組みとして、新しい生活様式が提案されています。ここでは、費用のことは考えず解除の条件についていくつか考えてみることにします。解除の判断は、科学的根拠に基づき全ての市民に十分なケアーができる体制が整っていること基準にすべきだと誰もが思っていると思います。当然、緊急事態宣言が行われてから一月以上が経ちますから、政府では次のような方策に対する準備を整えられているものとは思いますが。市民が1月から政府に求めているのは、「できることは何でもやる」「スピ-ド感を持ってやる」「政府一丸となって全力を挙げて取り組んでまいりたい」「科学的根拠に基づいて決めていきたい」などの決意表明ではなく、実行だと思います。

1.全市民の抗体検査を実施すること;1番になすべきことは、市民全員の抗体検査です。ワクチンの開発にはまだ時間が掛かり、また今のところ抗体を持つ人が再感染しないという保証はないようですが、抗体をもつ市民ともたない市民を明確にすることです。この割合がある程度高いことが望まれますが、それはワクチン開発の後になるでしょう。

2.コロナ調査およびコロナ安心度の導入:次になすべきことは、抗体を持たない人の感染率調査です。医者さんが日常的に判断の基準にされているらしい陽性率は、前のブログで示したように、極めて曖昧な非科学的な量であり、指標として使うのは危険です。その代わりに、抗体を持っていなかった市民をランダムサンプリングし、PCR検査あるいは抗原検査(市民コロナ感染率調査=コロナ調査)をすれば、市中感染者率を求めることができます。理論的にはそれから発症者数が予想できますが、を精度良く求めるには、相当な数多分100万人位の調査が必要となりますから、それなら全員検査して、隔離すれば良いことになります。これも1日でやる必要がありますから色々と問題があります。1000人~10000人程度の調査で、がゼロなら一安心という程度には使うことができます。それよりも、既に専門家会議が示しているように、各都市の重症化予想数がありますから、それを用いて(許容できる患者数/予想される重症者数)によりその都市のコロナ安心度、つまり発症しても病院で見てもらえる安心度を定義します。コロナ安心度Sは、1の時に病院が一杯になるわけですから、Sをどれだけ大きくする必要があるかを考慮して閾値を決めれば、解除の判断基準になります。空きベッドの割合よりも、安心度の方が、良い基準となるでしょう。安心度に関しては、専門家の方にぜひもっと適切な定義をして頂ければと思います。決して、陽性率を解除の判断基準として使うべきではありません

3.病院、隔離・支援の仕組み:予想される感染者数を十分受け入れられる、病院、隔離・支援の仕組みが構築できている。

4.公共スペースの消毒体制:公共の乗り物を含め、公共スペースの常時の消毒を徹底する体制を作る。例えば、電車やバスは、一定時間ごとに消毒し、繁華街、エレベーター、エスカレーターなども一定時間毎に消毒する。

5.各家庭の防ウイルス支援:各家庭に定期的にアルコール、マスク(アベノマスクより大きいほうが良い)を配れるようにする。

6.失職した人の雇用:上記3,4,5で新たに必要となった業務を行う組織を作り、コロナ対策で失職した人を雇用し、支援事業を行う。

これらの取り組は既にいくつかの自治体で行われているところですが、全国規模の連携があればより効率のよい仕組みが作れるものと思います。緊急事態宣言の解除には、これら六つの条件(さらに必要な条件を加えて)をレーダー図にすれば判断しやすいことと思います。

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新型コロナ雑感2 科学的な根拠について [コロナについて]

科学的な根拠について
新型コロナ対策として、実際に報告されている数値と関連づけて、様々な関係が議論されています。ここでは、これまで用いられていると推測される方法や提案されている指針などを検討してみます。いくつかの例は、研究の倫理規程にあっておらず、このような非科学的主張によって政策が決められないように、一人の科学者として切に思います。
1.実効再生産数:実効再生産数は、新規感染者が増加する割合と除去(治癒するか隔離)される割合の割り算で定義されます。未感染者数を人口全部とするか、人口から感染した人と治った人の数を引いたものにするかで少し値は変わりますが、感染症蔓延の初期ではあまり差はありません。この比が1より大きいと感染が拡大し、1より小さいと感染は収束します。よくテレビなどでは、一人の感染者が何人の人に感染するかを表す数字と説明されていますが、1日で感染させる数なのか1週間で感染させる数なのか疑問に思われて、もやもや感が増えるものと思います。答えは、感染者が感染させなくなるまでの時間の間にということです。接触8割削減というのは、分子の新規感染者数を小さくしようというものです。普通のインフルエンザの場合、自宅待機の隔離と薬による治療により、分母を大きくして、有効再生産数を1より小さくする方法が採られています。新型コロナウイルスの場合、市中にいる無症状感染者の感染力がなくなる期間が問題になりますが、その値は今のところはっきりしません。論文等は、この日数を30日とした結果を示していますが、15日にすると少し図はずれます。その場合、2倍の隔離率で5割行動削減で1/10になるまで18日くらい、現在の検査率で都市封鎖するのと同じくらいになります。実効再生産数の定義の分母に入っている隔離率を大きくすると、当然実効再生産数が小さくなり、収束が早まるというのが論文の一つの結論です。メディアでは取り上げていませんが、仮に隔離率を観測データから見積もれれば、その日の隔離された人の数(陽性者)を隔離率で割ったものが市中感染者数となります。隔離率が0.2だと5倍、0.1だと10倍、0.5だと20倍、と見積もることができます。これまでのSIRを用いたモデルでは、日々観測できる隔離者数をあらわに取り扱ってきませんでしたから、そのまま用いると、新型コロナの感染の様子を理解するのに苦労することになります。

2.陽性率:東京都の定義によると、陽性率=陽性者数/検査数です。これは割合の問題ですから、小学生でも習うことだと思います。例えば、黒と白との碁石を50個ずつ持ってきて、よく混ぜたあと目をつむって10個取り出すと、多分白黒半々位になっていることが多く、何回かの平均を取ると黒の割合は50%になります。一方黒が多いような取り方をすれば、当然黒の割合が増えますが、全体の中の黒の割合もそのように大きいと結論づけると、多分先生からよく考えなさいと言われます。つまり検査の対象とした集団(母集団とよびます)の取り方で、陽性率はいくらにでもなりますから、陽性率はむしろ母集団の選び方の特徴を表しているに過ぎません。検査による隔離の効率を上げるには、お医者さんからできるだけ陽性者らしい人を選んでもらい、検査場に送ってもらいます。この時陽性率が高いと、医者の見立てがよく、隔離の効率が上がります。陽性率が低いと、市中の感染者の割合は低いか、医者の見立てが悪いか分からなくなります。現在、陽性率から市中感染率=(自治体内の無症状者の数)/(自治体の人口)が推定できているのか、陽性率の低さを自粛解除の判断基準の一つにされかけています。この推定の科学的根拠を是非明らかにしてほしいと思います。陽性率を判断基準とするのは大変危険です。このように科学的根拠のない仮定で論文を書くと、即座に掲載不可になるでしょう。最近あるクリニックの先生が、来院した人を検査すると、陽性者がだんだんと減ってきて、今はゼロになっていると、その医院の陽性率を説明していました。これは、来院されるような症状を持った人の中には感染者はいないことを示すに過ぎません。現在問題になっているのは、市中にどれくらい無症状感染者がいるかということであり、病院に来られた人の陽性率と市中感染率の隔たりは、かなり大きいでしょう。まだ余裕のあるPCR検査あるいは抗原検査を用いて、サンプリング検査(新型コロナ感染率調査~コロナ調査)をやり、その結果と1.の方法による推定値の比較から、市中感染率を求めるべきと思います。

私のかかりつけの医者に、市中の感染率はどう見積もるのかを聞いてみました。その先生も最初は、「来院した患者の中の感染者数の割合(陽性率)で見積もる」と言われました。そこで、現在問題になっているのは、「市中無症状者の割合(市中感染率)ですよね」と問いかけると、「あっそうか、それはわからないな」と気づかれました。つまり、お医者さんは普通のインフルエンザの時のように、来院者に対する感染者の割合(その医院での陽性率)で、感染率が見積もれるという考え方が染みこんでいるようです。医者同士の会議の中でそれに異を唱えられる人がいれば良いのですが。

3.陽性率と重症化率の相関およびコロナ死亡者数と検査数の相関について:公的に発表されるデータは、日ごと陽性者数(隔離者数)、PCR検査数、陽性率、重症化率、退院者数位です。これらのデータの時間変化を見て、何らかの関係があると考えてデータを整理するのは、一つの科学的手法ですが、その場合その相関があると考える科学的根拠を示すべきでしょう。最近陽性率と重症化率に、前者が増えると後者も増えるという相関があり、重症化率を下げるには、検査を増やして陽性率を低くする方が良いという考え方がテレビで放映されています。多分重症化率は、重症化した人の数を隔離されている人数で割った割合と思われます。この場合、大切なのは、分子を小さくするように重症者をださない治療が必要であり、この割合を小さく見せるために分母を大きくしても全く意味はありません。もちろん隔離率を上げるために検査数を増やすのは大切な方策です。また、あるテレビ番組でコロナによる死者数は、検査数が多いほど多くなる傾向があり、ヨーロッパは他国の傾向よりさらに上にあるので、検査数を増やされた方が良い、日本は他国と同じくらいだから問題は少ないという主張をされていました。これは、検査数を増やすと死因がコロナと特定できた人の数が増えただけで、何の価値もない相関の見方です。権威のある大学の教授が言えば、市民の方は惑わされるかもしれませんが、このような相関を示す論文を書けば、即却下になります。また、そのような非科学的主張をテレビで放送するなら、テレビ局の科学的見識の欠如を疑います。

4.ヨーロッパ産のウイルス:ウイルスのRNAを調べると、日本では、初期の中国から来たウイルスによる感染は収束し、最近はヨーロッパから来たウイルスにより感染に変わっているという報告がありました。それにより、初期の感染が完全にコントロールできたと主張されています。この報告が論文として投稿されれば、多分もっと調査して論拠を明確にするように求められることと思います。12月から1月にかけて、中国からの訪問者がまだ多く、その間に無症状のまま感染させていた可能性がないことの証明、またクラスター対策で漏れがなかったことの証明が求められるでしょう。たまたま日本にいたウイルスが変異して、ヨーロッパ型に近いものになっていた可能性の否定も求められることでしょう。

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新型コロナ雑感1 政策について [雑感]

新型コロナ問題についての論文がメディアでも取り上げられています。論文の「市中の感染者を速く隔離することが重要」という主旨を理解せずに取り上げているメディアは、仮に計算した数値のみを示すだけになってしまい、私の提案を一般の方々に理解して頂くことの難しさを痛感しているところです。

私も含め市民の中には、政府の対策や行動自粛の科学的根拠などについて、もやもや感が拭えず、不安や不満をお持ちの方が多いと思います。先日来、1.政策のこと、2.科学的根拠のこと、3.出口戦略のことについて考えていたことを三つのブログとして記しておきます。これらのブログが、皆さんのもやもや感を少しでも拭えればと思います。

政策について

1.安部首相の「新規感染者が退院数を下回れば良い」発言について;発言の科学的根拠やそれぞれの単語の意味が分からないですが、普通考えられているように、前者は日々陽性者の数、後者は報道されている退院者の数としますと、安倍首相の発言は、入院中の感染者の数が減っていく傾向にあれば、つまり医療崩壊に向かっていなければ良いと理解できます。一方、大切なのは市中感染者がどれだけ増え、今いる市中感染者が毎日どれだけ感染力を持たなくなるか、どれだけ隔離されるかです。前者が後者二つの和を下回れば、市中感染者が減っていくはずです。今のところ無症状者を治療するわけにはいきませんから、政策としてできるのは、ちゃんとした仕組みを作って隔離を増やすことと、市民は感染しないように行動を自粛することが必要になります。病院の空きベッド数がだんだんと増えていけば、解除の条件になる、のは、大事ですが、市中感染者の減少の傾向を見ること無しに政策が決定されるのであれば、レッドカードを出したいと思います。

2.1-3月の対応と新年度予算:新型コロナウイルスのことは12月には分かっていましたが、政府は緊急事態宣言前に予算を通してしまいました。市民は、宣言後に不要・不急の行動や旅行をしないことが要請されましたが、この予算の中の不要・不急の事業を仕分けによって執行猶予し、緊急事態の対策費に充てるべきだと思います。国全体がOneTeamとしてこの事態に対応するためには、ぜひ野党に「事業仕分け」をやってもらえればと思います。

3.検査体制について:初期のPCR検査体制は、かなり制限的であり、症状があってもななか検査されませんでした。高熱が4日間続くまで、検査の相談もできず、相談しても武漢や湖北省と関係がないと検査されないという期間が長く続きました。この検査体制は、もちろん検査のキャパシティや隔離先のベッド数・医者の数などを考慮して取られたものでしょうが、本来は逆に、感染症に指定した政令を早期に改訂し、軽症・中症・重症者に対する隔離の仕組みを、場所、自宅待機者への支援方法を含めて、整えておくべきであったと思います。12月から1月にかけては中国からの観光客も多かったので、無症状の感染者が広がっていたいう疑いはぬぐえません。

4.政府の対策の科学的根拠:検査体制や行動自粛に対して、根拠なく数値が示されてきたのが、市民のいらいらの一つの原因だと思います。数値目標を示すなら、その根拠を明確にしないと誤解が生じます。例えば、行動8割自粛すればよいのであれば、会社に行かないので、近くの商店街やホームセンターに短時間出かけるだけなら8割自粛達成と言うことになりかねません。会社では個室にいる人が商店街を歩き回れば、接触機会はかえって増えるかもしれません。主要な駅の混み具合だけを見ても各個人の接触機会の減少の尺度にはならないと思います。

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PCR検査の精度について [コロナについて]

論文に対してPCR 検査の精度が100%ではないのによいのか?という疑問が多く寄せられています。陰性なのに陽性となった人は、特に大きな問題になります。誤って隔離された人は、隔離による不便を被るだけでなく、感染させられることもありえます。誤りを防ぐには、精度が高いと言われている方法(唾液法)の採用や抗原検査と組み合わすなどの工夫をして、精度を100%に近づける必要があると思います。

一方、理論上は検査の精度は、隔離率を決める一つの因子として取り込むことは可能です。発症した人を検査する場合、隔離率は[発症率×検査効率×その他の因子]で与えられます。ここで

発症率:ある日の市中感染者がその日に発症する割合

検査効率:発症した人をその日に検査する割合

その他の因子:確率を上げる効果としてクラスター法的検査を採用する、確率を下げる効果としては検査の精度が低いこと、および検査されるまでの待ち時間や判定までの時間など

理論的に言えることは、検査体制を充実して隔離率を上げれば収束が早まることだけですが、それはある意味既に知られていたことです。当然のことですが、隔離者数が増えるわけですから、重症者施設、中・軽症者施設の充実はもとより、自宅待機せざるを得ない人への対策が必要です。各自治体が、仕事が亡くなった人を集めて、食品・生活必需品・日曜雑貨のネット販売業務を支援する仕組みを作る等の対策が必要となります。

SIQRモデルで隔離者数を分離して考え(次のブログ参照)たことにより、全体の傾向から隔離率が見積もれれば、新規感染者数=隔離者数から、市中感染者数が求まることになります。これも当たり前のことですが、その関係は現在使われているように思われません。なお、論文では現在の隔離率は、ウイルスを出さなくなるまでの日数を30日とすると0.1, それを15日とすると0.07になり、市中感染者数はそれぞれ新規感染者数のおよそ10倍、15倍になります。専門家会議のように5日で隔離できているとすると5倍になります。メディアではこの点は全く触れられていません。

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何故隔離者を分けたモデルを考えるか? [コロナについて]

森田 直幸氏から「モデルにQを入れる意義」を問う本質的質問を頂きました。有り難うございました。

これまでのSIRモデルでは(5)式のみを考え、さらに隔離者を治癒者と同じように扱って、隔離率と治癒率を足したものを改めて除去率としたモデルです。専門家会議の資料(4月5日の記者団への説明)によれば、除去率は1/4.8 すなわち、感染者は平均5日で隔離または治癒すると仮定されています。

隔離者を明示的に分け、隔離者の項を分けて考える意義は次の4点です:

(1)隔離は人為的過程だからいわば政策依存であるが、治癒は薬などの別の因子できまる。政策を議論するためには分けておく方が便利である。

(2)治癒率(ウイルスを感染させなくなるまでの期間)はSIQRでは市中感染者のもののみが重要で、それを今の所薬(市販の薬)ではコントロールできない。

(3)現状では、データは日々隔離される人の数だけであり、それを(市中)感染者数と関係づける必要がある。

(4)一つの重要なパラメータは、隔離された感染者の治癒するまでの時間ではなく、(市中)感染者がウイルスをまき散らさなくなるまでの時間である。

以上から、現象を理解しやすくするためにQをいれ、物理モデルとしてSIQRモデルを提案しています。SIRモデルでは、日ごと陽性者の数から感染者全数を見積もるのは困難だと思います。SIQRは、現在は潜伏期間を無視した記憶効果のない平均場近似になっていますが、その導入は容易です。

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COVID-19に関する論文の補足 [コロナについて]

今日から論文の内容がテレビでも紹介されるようになり、研究が注目されて、励みになります。一方、数値が一人歩きして、テレビのレポーターや市民の中に誤解を生んだかもしれないので、この補足を書いておきます。

まず、パンデミック対策の基本は、(1)新規感染者ができるだけ出ないようにする、(2)市中の感染者をできるだけ速やかに隔離する この二点に尽きます。(1)の対策としては、都市封鎖や外出自粛が行われ、(2)の対策が検査/隔離になります。(1)の対策を取らないと、市中の感染者がどんどん増え、その数を上回る隔離が必要になります。つまり、外出自粛をやらないと、検査隔離体制の崩壊と医療崩壊が起こる事が危惧され、それによる経済的損失は(1)の対策による損失を越えるかもしれません。私の主張は、この二つの対策をバランス良く行って、市民の協力と政府/自治体の努力によって、できるだけ速やかにCOVID-19を収束させようということです。私は、行動自粛を続けるべきだと思います。

私のモデルは、物理的視点に立って、このパンデミックの特徴を理解するものであり、数値的結果はその妥当性を検証するために示したものに過ぎません。このモデルを用いて、日本全体、あるいは各自治体毎の感染拡大の様子を理解し、今後の対策に生かされればと思っています。必要であればいつでも協力いたします。

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